中世のヨーロッパでは自由の象徴であったという菩提樹、6月の今がまさに花の時でした。菩提樹と聞いて真っ先に思い浮かんだのが、シューベルトの「泉にそいて茂る菩提樹・・・」という訳詩と旋律です。ハンガリーの首都ブダペスト、ブダ地区とペスト地区を分かつように流れるドナウの流れは滔々として、吹く風は爽やか。天使が彫られている鉄製の街燈や石造りの建物と調和した菩提樹です。
芳しい香りに包まれ、近藤朔風の訳詩の中で繰り返されている「ここに幸あり」というフレーズがさざ波のように胸の中に広がっていきました。夫との中欧の旅も終わりが近づいています。
大きな歴史の渦に巻き込まれつつも、ドナウ川に抱かれ泰然として存在しているブダペストの街並み。そこに咲く自由の象徴である菩提樹の花の香りに包まれた「幸ある」ひと時。そんなひと時の記憶を遥か遠くの日本の日常に大切に持ち帰ることにしましょう。
そして日常に戻った今、菩提樹の花の芳しい香りは少し遠いものになりつつあります。
コメントをお書きください